第002話


第一章 大和 技陣(やまと ぎじん)という男


「技陣だぁ〜技陣が出たぞ」
「あいつか、皆殺しにされるぞ。逃げろ」
 悪党は散り散りに逃げる。
 大和 技陣という男を恐れているからだ。
 技陣……怪物ファーブラ・フィクタの七つの魂の内、二つを所有する男。
 ファーブラ・フィクタの魂を受け継ぐ者の中で最も残忍とされるこの男は最初からこうでは無かった。
 むしろ、最も優しい男だった。
 何が彼をこうさせてしまったのだろう――

「もう、悲しまないで下さい」
 悪党の去った道ばたに女が一人残されていた。
 通りかかった技陣に話しかけてきた。
「女……俺が悲しんでいるってのはどういう事だ?」
 技陣は女を睨む。
 彼は女子供であろうが、気に障れば殺すだろう。
 そういう男だ。
 情け容赦が全く無いそんな男だからこそ、悪党達は彼を恐れるのだ。
「あなたはとても優しい人。でも、悲しくて悲しくてどうしようも無くなっている」
「てめぇに何が解る?」
 技陣は女を恫喝する。
 が、良く見ると、女は両目がつぶれている。
 擦り傷、切り傷は当たり前。
 顔が変形する程殴られた後がある。
 たった今まで暴力をふられていたのだろう。
 古い傷も癒えてない上から暴行され、あちこち膿んでいる。
 見た目には醜いと表現せざるを得ない女だが、技陣には不思議と美しく感じた。
「私は占いをして生活をしています。元々は娼婦でしたが、見ての通り、女性として魅力を感じて貰える事が出来ない容姿になってしまいました。子供も産めません。でも、人の心に秘める暖かさは見えるようになりました」
「お前……」
 技陣は名前も知らないこの女の事が気になり出していた事に驚いた。
 この女なら自分の奥底に秘めた悲しみをいやしてくれるのではないか……そんな気がしてしまった。
「お代はいりません。ただ、あなたが、余りにも悲しそうだったから……つい声をかけてしまいました。見ての通り、女としての幸せは既にありません。ですが、もし、あなたの傷が少しでも癒えるのであれば、少し、お話しませんか?私と話して、私が他の人に言いふらすのでは無いかとご心配なら殺していただいてもかまいません。私の人生は決して幸せでは無かったかもしれませんが、今の立場になってはじめて見えて来た事もあります。最後に困っている人の役に立って死にたい。それが私の望みです」
「………」
(まただ……)
 技陣はそう思った。
 怪物ファーブラ・フィクタの魂を持って生まれた彼だが、人間の温かさを知ってしまった。
 前もそれを知ったが故に薄汚い輩に対するどうしようもない憎悪が後から後から噴き出してくる。
 一生懸命、生きていた者達を自分達が甘い汁をすするために食い物にする。
 そんな姿を見てきた技陣は人間を激しく嫌悪すると同時に、犠牲になって来た人達の温かさを知っている。
 知っているからこそ、自分がその温かい人達と関わってはいけないと思う。
 自分は既に、数え切れないくらい人間を殺してきた大悪党に過ぎない。
 自分はこれからも情け容赦なく、悪党を殺し続ける。
 温かい世界に居てはならない。
 そう決めたのだ。
 目の前のこの女は温かい世界にいるべき人間だ。
 悪党の居るこの町で出会うべき人間じゃない。
 だけど、このまま放っておけば、この女は悪党の憂さ晴らしの為にいずれ殺されるだろう。
 自分にはこの女を明るい世界に送ってやることが出来ない。
 自分の手は既に血塗られている――
 汚れた手で何かしてもそれは他の人間の不幸の上に成り立った事でしかない。
 技陣は悪党だけをなぶり殺しにしたつもりではいるが、それでも、誤解が誤解を生み、関係ない者をなぶり殺していたかも知れない。
 はっきりと確認した訳ではないからその可能性は捨てきれない。
 あくまでも直感的に気にいらない者をぶち殺して来たのだから。
 だが、この目の前の女は技陣が手にかけて良い人間ではない。
 それは解る。
 世間的に見ればどんなに薄汚れた容姿をしていようとも、技陣の直感からすれば、この女は天使の様に美しい心を持った女性なのだから。
「……俺にかまうな……」
 技陣は女を遠ざけようとする。
 自身の両腕に宿る、2核の化獣(ばけもの)5番、ルルボアと11番レーヌプスの力をほんの僅かに解放する。
 ルルボアは植物の化獣だ。
 それを象徴するかの様に、技陣の片腕が植物の木の様になり大きくなって行く。
 レーヌプスは闇のベールに包まれた化獣だ。
 もう片方の腕の闇を広めて見せる。
 もちろん、技陣はこの2核の化獣の力を使って女を殺すつもりは毛頭ない。
 化獣の力を使わずとも、技陣の力であれば、瞬殺する事は簡単だろう。
 あくまでも、女を退ける脅しとして使ったのだ。
 だが、女は逃げない。
 ひるまない。
 神御(かみ)や悪空魔(あくま)の力を凌駕する筈のその力の片鱗を見せつけられても一行に退く様子が無い。
 眼が見えないから?
 いや、違う。
 この女はありのままを受け止めているからだ。
 このまま殺されてもそれはそれでありだと受け止めているのだ。
 だから、恐れない。
 それを察した技陣は、
「女、……名前は、……なんて言うんだ?」
 と聞いた。
 眼に入る者は全て敵であった様な殺気のこもった人生を歩んできた彼からは信じられない事だった。
 他人に興味を持っているという事になる。
「私の名前は、ノーマ・ルと申します」
「俺の名前は大和 技陣(やまと ぎじん)だ。……話くらいなら……聞いてやっても良い……」
 と技陣は、たどたどしく答える。
 こういう返答に慣れていないからだ。
 だが、技陣はノーマと話をする事になった。
 話をするからと言ってこの二人が今後行動を共にするという事はない。
 技陣はこれまでの行動をやめるつもりはないし、それだと、ノーマは当然、連れては行けない。
 この先は別々の人生を歩んでいく事になるだろう。
 ノーマにはノーマの人生がある。
 二人は、たまたま、すれ違っただけだ。
 二度と会う事はない。
 二度と会わないのであれば――なかなか言えない事も話せるのでは無いか……技陣はそう思った。
 レディ・ファーストではないが、自分の事だけを話すのは面白くないので、まずは、ノーマの話をさせる事にした。
 彼女の話は確かに不幸だったが、もののとらえ方は人それぞれで、不幸の中からも取り出せる幸せはあるという事を説く様な話となった。
 彼女の話は立派だったので、逆にばつが悪くなり、話にくくなったが、彼女に話をさせて、自分は話さないのは技陣の中の筋が通らないので、彼もまた、恥を忍んで話をした。
 自分は元々、争いが好きではなかったという事。
 人を信じて行動していた事。
 手ひどく裏切られた事。
 それによって、大切にしてきた者達がみんな、苦しみぬいて死んだ事。
 それが、神話の時代の怪物ファーブラ・フィクタという存在の意識がフィードバックしてきた事。
 自分が、怪物ファーブラ・フィクタの生まれ変わりの一人であり、最強の化獣、クアンスティータを最強にするために行動してきたという事。
 自分達が行動した事によって、本家、怪物ファーブラ・フィクタが力を取り戻し、クアンスティータ誕生のために動き出した事。
 怪物ファーブラ・フィクタの暗躍により、その生まれ変わりである自分達のする事が無くなってしまった事。
 虚しくなり、他に強さを求めるが、どの強さもクアンスティータの出鱈目な強さの前には遙かに劣り、強さという事自体が解らなくなったという事。
 クアンスティータ関係からはじき出された自分達は、次に何を求めれば良いのかという事を悩んだこと。
 虚無六界(きょむろっかい)という宇宙世界はクアンスティータの脅威が届いておらず、そこにもクアンスティータの恐怖を広めるという事で自分達の行動を結論付けた事。
 など、技陣と丹波 時銀(たんば じぎん)、柳宮寺 仁義(りゅうぐうじ じんぎ)の三名が内に秘めている思いなどを伝えた。
 まもなく、自分も、虚無六界のどこかに行き、戦いにくれる毎日を送るという事も告げた。
 そう、技陣はこの現界(げんかい)に別れを告げ、虚無六界へと向かう。
 現界には二度と戻らないかも知れない。
 だから、見ず知らずのノーマに思いを残すために、つい話す気になったのだ。
 一昼夜話した後、気が済んだのか、技陣は、
「……礼を言う……」
 とだけ、言って、姿を消した。
 後に残されたノーマは、
「……御武運を……」
 とつぶやいた。
 ノーマはその後、彼女なりの幸せをつかみ日々の幸せに感謝する毎日を送っていた。
 技陣はその後、二年に渡り、虚無六界での戦いにくれる事になる。
 悲しき男、技陣は戦うことでしかその苦しみを晴らせない。


第二章 バトル・チア


 レコード・ノートというアイテムにより、竜乃宮 華芽菜(りゅうのみや かめな)とその友人、榊 鈴子(さかき すずこ)は身体を二つに分けられた。
 その一つは、現界に残りバトル・チア大会の観戦、もう一つは、虚無六界へと旅立ち、プロフェッショナル・バトル・ストロンゲストの観戦という事になった。
 仁義は、
「じゃあ、かめ子、早速、案内してもらおうか」
 と言った。
 華芽菜と仁義は、バトル・チアとプロフェッショナル・バトル・ストロンゲストという二つの大会の面白さを競争する事になっている。
 もう片方の華芽菜達は、プロフェッショナル・バトル・ストロンゲスト、通称プロ・バトをもう片方の仁義によって案内されているはずなので、こちらの華芽菜達は、仁義にバトル・チアの大会を紹介しなくてはならない。
 バトル・チアはどんなに優れた選手がいようと基本的に人間達の大会、プロ・バトは、超越者達がゴロゴロ登場する人智を越える大会。
 比べるべき対象では無いとも言えるが、面白さとは、その大会の参加者達それぞれのレベルに合わせたものとなる。
 例え、力の差が歴然であっても大会参加者のレベルが一点集中で偏ってしまえば、殆どの試合がつまらないものになるだろうし、レベルが低くとも、ライバルが多い大会となれば、試合は白熱するだろう。
 なので、大会の迫力ではなく、面白さという勝負なのである。
 面白さという点で言えば、バトル・チアにもプロ・バトに勝利する可能性は十分にある。
 要はどれだけ盛り上がるかなのだ。
 仁義に勝つには、バトル・チア大会を如何に面白く紹介するかが胆となる。
「解ったわよ。案内してあげるわ。でも、急に言われてもダメよ。こっちにも準備とかあるんだから。だから、ちょっと時間頂戴よ。打ち合わせとかするから」
「何だ、準備してなかったのか?」
「あったり前でしょ。あんた、いきなり現れたのよ」
「二年後に来ると伝えてただろ」
「本当に来るなんて思って無かったのよ」
「俺はやると言ったらやる男だ」
「はいはい、それは解ったわ。とりあえず、一週間頂戴よ。その間に色々、準備するから」
「一週間だと?そんなに待つのか?」
「二年も音沙汰無かったんだから、一週間くらい待ちなさいよ」
「まぁ、良いだろう……」
「トリッキーズに会いに行ったら?あんた、監督だったんでしょ」
「トリッキーズ?」
「呆れた、覚えてないの?」
「知らんな」
「自分がやった事くらい覚えておきなさいよ。トリッキーズの台頭で色々変わっていったんだから。大会の台風の目になってね。あんたがそのきっかけを作ったんだからね」
「まぁ、良い、会いに行くか」
「顔は覚えているんでしょうね?」
「覚えて……ないが、それがどうした?」
「それでどうやって会いに行くのよ?」
「適当に歩けば、向こうから声かけてくるんじゃないのか?」
「てきとうっていうか、相変わらず無茶苦茶な考え方ね。ちょっと待ってなさい」
 と華芽菜は言って、スマホに映し出されたトリッキーズのメンバーを見せた。
 元、いじめられっ子、沢宮 理路(さわみや りろ)、
 元、ヤンキー、杉浦 可奈(すぎうら かな)、
 元、生活困窮者、ぽち子、
 18歳になった彼女達は伝説を作ったが、今は引退している。
 この三名が起爆剤となり、バトル・チア大会は盛り上がり、規模も大きくなっていた。
 彼女達はバトル・チアの大会を盛り上げるために裏方に立場を変えていた。
 大会のスポンサー集めや新人の発掘などに力を入れていた。
 彼女達の活躍は仁義としても嬉しいのではないかと思っていたのだが、仁義の反応は薄かった。
 元々、華芽菜に対抗するために集めたメンバーだったので、大して興味が無かったのだ。
 だが、今のバトル・チアの立役者でもあるこの三人の名前を忘れていたことを素直に恥て、記憶の隅にある彼女達の記憶を呼び起こすのだった。
 仁義は華芽菜達と一旦別れて、理路達を探すのだった。
 久しぶりに会った、彼女達はいくらか大人びて見えた。
 女性は二年会わなければ劇的に変化することもある。
 彼女達はそれに当たった。
 彼女達の口から、現、バトル・チアは10強時代になっているという事を聞いた。
 10チームがそれぞれ、強力な新人を発掘して育てていて、それに追随する形で、数十チームが実力を伸ばして来ているという事も聞いた。
 華芽菜達も参加しているが、残念ながら、10強には入っておらず、それに追随するチームの一つとして、頑張っているという事も聞いた。
 華芽菜としては、トップに立っていない状態で仁義が尋ねてきたので、ばつが悪かったようだ。
 だが、それを言えば、仁義の方も同じ事だ。
 彼は、虚無六界でトップに立った訳ではない。
 上には上が居るというのを身にしみて感じた二年間だった。
 トップには立って居ないが、だからといって、約束を違える仁義ではなかった。
 二年と約束したのだから、きっちり二年たったら、志半ばでもきっちり会いに行く。
 それは、仁義としての筋だった。

 トリッキーズは理路達から後輩に引き継がれ参加しているが、立場としては、華芽菜達のチームと同じ様な立場らしい。
 そのトリッキーズの新メンバー達と挨拶などをして、仁義なりに鍛え直しして、一週間は過ぎていった。
 それは、華芽菜との約束の一週間でもある。
 彼女は一週間で準備すると言っていた。
 なので、仁義を案内する準備が整ったという事を意味していた。
 華芽菜は、
「ったく……一週間、大変だったわよ」
 と文句を言った。
 急な話だったので、彼女は走り回ったのだ。
 だが、きっちり約束を守るところは律儀な彼女らしいと言えば彼女らしかった。
 華芽菜は相変わらずの男嫌いである。
 だが、少なからず、仁義の事は認めているらしい。
 仲間のつもりは無いが、それでも約束した事を違えるという考えはないようだ。
 華芽菜は選手達の日程を調節していたのだが、大きな大会は一月後を予定している。
 なので、調整もあるので、すぐに大物選手を出すという訳には行かない。
 だが、予選敗退者達の中から、エキシビジョンマッチくらいならやってくれるという選手は何人か出てきていた。
 大会運営委員ではないので、華芽菜に出来る事は限られているが、ある意味レジェンドとされている華芽菜の呼びかけに答えようと言う選手は結構いた。
 それでも大きな大会に出場予定の選手は断念せざるを得ないが、例え、予選敗退者でも、最近のバトル・チアリーダーのレベルは二年前より数段上がっている。
 それこそ、予選敗退者でも二年前では本戦出場レベルを十分クリアしていた。
 だから、決して、見劣りする様な戦いにはならないという自負があった。
 華芽菜は、本戦出場者は調整があるから戦いは見せられないけど、敗退者ならば、見せてくれることになっているという事などの事情を仁義に説明した。
 仁義としても、すぐにメインディッシュを味わったのではすぐに楽しみが終わってしまうという事で、まずは、バトル・チア全体のレベルの底上げの部分を見てみるとして、納得した。
 今回、仁義に戦いを見せてくれる選手の名前は、ミネア・ウマドという選手とローア・チャンという選手になる。
 無名だが、実力はそれなりに二人ともある。
 レベルを見るだけなので、チーム戦ではなく、個人戦という事になる。
 競技種目はプログラムマシンゴールという種目になる。
 競技としては、あらかじめプログラムしてあるマシンを動かし、それぞれ指定するコースのポイントを多くとり、時間内にゴールした方が勝ちというゲームだ。
 バトル・チアリーダーとしては、相手プレイヤーのマシンの邪魔をしながら、自分のマシンをゴールに誘導していくという競技になる。
 マシンが走行不能になったり、時間内にゴール出来なかったら、負けになるので、バトル・チアリーダーは相手との間合いを計りながらオフェンスもしくはディフェンスをしなくてはならない。
 これは本来はチーム戦用の競技なのだが、個人技を見てもらうために、個人戦として戦ってもらう事になっている。
 ルールとしては、バトル・チアリーダーはマシンに直接攻撃をしてはならない。
 あくまでも、マシンの前方に罠を配置し、マシンがそこを通り、罠にかかるというものだ。
 爆発物ではあるが、芯を食っても一発でマシンが走行不能になることはない。
 何度か直撃させなければ走行不能にまで持っていくことは出来ない。
 また、マシンが走行中に通るポイントは移動させる事が出来る。
 敵のポイントを自分のマシンが通るポイントに配置すれば、自分のマシンにポイントが入る事になる。
 また、ポイントを持ったまま、立ち止まってはいけない。
 ポイントは奪ったら、速やかに移動し、配置しなくてはならない。
 ポイントを持っていられる時間は一度に3秒までと決まっている。
 また、バトル・チアリーダー同士が戦ってはいけない。
 等々、細かいルールが設定されている。
 何の妨害もなければ、マシンは大体、10分から15分くらいかけて、ゴールに移動する事になっている。
 与えられている時間は20分なので、5分間の余裕がある。
 その有効時間も出来るだけ使って時間ギリギリにゴールすれば、それだけ、ポイントも多く貰える可能性が高い。
 この種目としては、先にゴールすれば勝ちという訳ではない。
 ゴールしてしまったら、プレイヤーは相手のマシンに影響する行動を取ることが出来なくなる。
 なるべくギリギリのタイムで多くのポイントを取った方が勝ちというゲームだった。
 直接攻撃しあわないので、迫力には欠けるが、それでも、敵プレイヤーとのやりとり、駆け引きを見ているのは仁義としてもなかなか面白く見ることが出来た。
 どちらのプレイヤーも初めて会った人間なのだが、実力が拮抗していて、なかなか楽しめた。
 華芽菜の解説ではこの種目も二年前には存在していなかったという。
 この二年の間に、バトル・チアの競技数は2倍近くまで跳ね上がったという。
 盛り上がったというのはこの競技種目の多さもどのチームがどんな勝ち上がり方をするか読めなくなったので、ワクワクハラハラが増していったというのも理由だった。
 仁義は感心する。
 確かに、バトル・チアをやっているのはただの人間なので、迫力からすると、プロ・バトから見れば、遙かに劣る。
 だが、競技の複雑さ、多さで言えば、決して、プロ・バトにひけを取るものではない。
 立派な楽しい競技として、成立していた。
「やるじゃねぇか、かめ子」
 仁義は素直に褒めた。
 華芽菜は、
「この、二年、新種目を増やすのに力を入れてきたからね。まだまだ、あんたの知らない面白い競技はあるわよ。私でも全部の競技を把握している訳じゃないしね。奥が深くなっているわよ、バトル・チアはね」
 と言った。
「面白れぇ、面白れぇよ。もっとだ。もっと知りてぇ。他にはねぇのか?」
 興奮を隠せない。
「だから、まだ、大会準備期間だって言っているでしょ。楽しみたかったら、大会まで待ちなさいよ。そこからなら、嫌でもたくさん競技見れるから」
「一個っきゃねぇのかよ。それはねぇだろ、もっと見せろ、もっとだ」
「仕方ないわね。じゃあ、もう一ゲームだけ見せるわ。後は、大会まで待ちなさいよ」
「解った」
「じゃあ、ついてきなさい」
 と言うと、華芽菜は、別の場所に移動した。
 距離があるので、車を用意してもらった。
 仁義は、屋根に乗り込んだので、
「ちょっと、どこ乗ってんのよ、危ないでしょ」
 と文句が出たが、
「心配するな、俺は平気だ」
 と返した。
「ポリスに捕まっちゃうでしょうが、大人しく降りなさいよ」
 と言って、強引に、仁義を車の中に押し込めた。
 意外にも仁義は素直に従った。
 もっと反抗されるかも知れないと思っていたので少々拍子抜けする華芽菜だった。

 次に案内された所は、アンドロイドのバトル・チアリーダーが居る研究所だった。
 このアンドロイドを使って、バトル・チアは新種目を研究しているので、言ってみれば、新競技が生まれる場所と言っても良かった。
 華芽菜は、
「これから、バトル・チアの新競技のテストが行われるわ。選手も暇じゃないから、あんまり、予定は確保出来にくいけど、競技になる前のテストバージョンならアンドロイドを使って見せる事は出来るわ。機械だから、あんまり人間的なプレイは期待しにくいけど、それでも、ゲーム内容を見るには丁度良いと思うけど。それでもかまわないかしら?」
 と言った。
「へぇ、ロボットにさせるのか、それも面白そうだな。よし、見てみよう。案内してくれ」
「それは良かった。タダで見れる訳じゃないから、ここで、あんたが見ないと言ったら文句の一つでも言ってやろうと思っていたところよ」
「競技の可能性を見るんなら、人だろうがロボットだろうが同じさ」
「じゃあ、行くわ。こっちよ」
 華芽菜の案内で、研究所に入る。
 セキュリティーチェックもあり、入るのは面倒臭かったが、ビッグビジネスにも繋がりかねない事なので、それは必要な事だった。
 今回、華芽菜が案内するのは、審査を終え、新競技になるのはほぼ決まりの競技であり、大会登録は終えているので、権利問題も問題ない状態になっていて、一般にも開放されている競技だった。
 競技種目名はトライアングル・チェンジと呼ばれるものだ。
 競技は三対三以上で行われる競技となる。
 このトライアングル・チェンジにも何種目もあるのだが、ここで行われるのは、障害物レースバージョンとなる。
 一チーム毎に三種類のゼッケンをする事になる。
 色分けをしてあり、Aチームは赤、青、黄色のゼッケン、Bチームは、緑、ピンク、紫のゼッケンをしていた。
 チーム毎に、荷物役、運搬役、応援役に別れる事になる。
 荷物役は基本的に動かない。
 運搬役が荷物役を運ぶ事になる。
 応援役はバトル・チアという立場で応援にまわる事になる。
 勝負としては、障害物のあるコースを運搬役が、荷物役の乗った手押し車をゴールまで先に運べばゴールとなる。
 だが、それだけであれば、バトル・チアではない。
 この荷物役、運搬役、応援役は一定の秒数で変わるのだ。
 応援役がルーレットやスロットなどをして、運搬役が応援役を運ぶ秒数を確保するのだ。
 運搬役は、応援役が確保した秒数分だけ応援役を運ぶ事が出来る。
 決まった秒数が立つと、ストップする。
 その時間内に動きを止めないと失格となるのだ。
 応援役はその時点で、スロットを押し、新たな荷物役、運搬役、応援役を割り振る。
 運が良ければ、同じ割り振りで、そのまま再スタート出来るが、違った割り振りになった場合は、変わった役割の配置に全員が着いてから新たな応援役が運搬役が運べる秒数を確保する。
 応援役は、如何に多くの時間を確保するかという事も大事だし、役割がなるべく変わらない運も必要となる。
 運搬役は荷物役を運ぶ体力が必要になるし、応援役が確保した時間を理解して行動しなくてはならない。
 荷物役は、配置についたら、基本的に動く事は出来ないし、軽い方が運搬役にはありがたい事になるが、この荷物役が運搬役に回ったら、体力面での不安が出てくる。
 という様々な複雑な要素が絡み合った競技となる。
 知力体力時の運全てが必要な競技と言えた。
 もちろん、これは、トライアングル・チェンジの一例に過ぎない。
 応用しだいでは、より複雑な競技にもなるし、バリエーションも多岐に渡る。
 競技をしているのはアンドロイドなので、動きが多少、ぎこちなかったが、それでも、仁義には、この競技の複雑さが理解出来た。
「すげぇ、すげぇよ……面白れぇ。よく、考えつくな、お前」
 仁義はまた、感心する。
 華芽菜は、照れながら、
「私が考えたんじゃないわよ。色々、アイディアを出し合って、精査して、決めているの。安全を考えて、まずは、アンドロイドなんかでテストして、何度も会議をして、それで決めているのよ。だから、中には、ボツになったアイディアもたくさんあるわよ」
「選りすぐりの競技って事か」
「中にはバトル・チアの意味が無いと言って却下された競技とかもあるわよ。着ぐるみとか着たりしてね」
「ほーう、そんなのもあったのか」
「競技化されたものの10倍以上はボツよ」
「再利用とかしねぇのか?もったいねぇじゃねぇか、それ。どっか使える部分とかもあるかもしれねぇじゃねぇか」
「部分的に再利用されたのもあるわよ。もちろん、ボツも貴重なアイディアの一つとして、データで保管してあるから、ボツ案を改良して新しいアイディアにっていう動きもあるわよ」
「それで良いぞ。やるじゃねぇか」
「あんたに褒められてもね……」
「まぁ、この分なら、本戦の戦いが楽しみだ」
「それまでは大人しくしてなさいよ」
「おぉ、任せておけ」
「あんたの大丈夫はどこまで信用して良いのかわかんないからね」
「まぁ、そう言うなって、俺のプロ・バトの方の感覚とかもそろそろ伝わって来る頃だぜ。あっちもお前んとこに負けてられねぇからな」
「はいはい、楽しみにしてますよ」
 仁義と華芽菜達は身体を二つに分けたからと言って、すぐに、反対側の感覚が伝わってくるという事は無かった。
 それだと、二つの競技の感覚が混ざってしまって解らなくなる可能性があったからだ。
 なので、一定期間が経ったら、一気に、反対側の感覚がお互いに伝わるようにしていた。
 そうすることで、二つの興奮が混ざるのを防いだのだ。


第三章 プロフェッショナル・バトル・ストロンゲスト


 一方、虚無六界の方に連れて来られた方の華芽菜と鈴子は、仁義の案内で、彼の所属している虚湧界(きょゆうかい)を案内されていた。
 虚湧界は虚界三界の一つに数えられる。
 虚界三界と無界三界の違いは数字に例えれば、現界(げんかい)をプラスと考えれば、マイナスの要素(虚界)かゼロの要素(無界)かという所が違うと言える。
 虚界として構成されているのは現界にとっては反物質で構成されており、現界と交われば、対消滅する可能性が高いとも言える。
 無界としては、無(無い)としての要素が高いと言える。
 そういう違いはあるが、共通して、虚無六界ではクアンスティータの恐怖は伝わっていない。
 ある意味、クアンスティータの威光が伝わらないからこそ、虚無として判断されているとも言える。
 それ故、クアンスティータに変わるビッグネームが虚無六界にはあるのだ。
 だが、実の所、仁義達は、まだ、そのビッグネームにたどり着いていない。
 虚無六界は広すぎるが故にまだまだ、全体までたどり着くと言えるには二年という時では全然足りなかった。
 ビッグネームが他にあるという所が解っただけでも、大した成果とも言えた。
 恐らくは、虚無六界、一つ一つに、最低一名以上は居るだろうという所までは解っていた。
 仁義達の目標としてはそのビッグネーム達にもプロフェッショナル・バトル・ストロンゲストに参加してもらいたいという所ではある。
 あくまでも目標であり、その目標が達成する目処はまだまだ全然立っていないというのではあるが、それでも、高い目標は仁義としてもやり甲斐があると言えた。
 華芽菜は、
「ちょっと、何処、連れて行くのよ?」
 と聞いた。
 仁義は、
「とりあえず、お前らにもちったぁ、まともな耐久力をつけてもらわねぇとな。見たら即死じゃ、話になんねぇからな」
 と答えた。
 鈴子は、
「ちょ、ちょっと、華芽菜ぁ、何か怖い事言ってるんですけど……」
 と不安げに言った。
 それが聞こえたのか、
「心配すんな、ちょめ子、お前らはただ、黙って居れば良い。楽して、強くなれっから」
 と言った。
 相変わらず、鈴子の名前を覚えていないようだ。
「あの……鈴子です。……あんまり痛いのは……」
「痛くねぇ、痛くねぇ。ただ、ちょっとチクッとすっかもしれねぇが……」
「痛いんじゃないんですか?」
「よそ見でもしてたら、すぐに終わるって」
「嫌です。怖い怖い」
「ちょっと、鈴子、私まで不安になるじゃない」
「だって、華芽菜ぁ〜」
「心配すんな、もう終わったから」
「え?」
 と鈴子。
「は?」
 と華芽菜。
 二人とも何時、何をされたのか解らなかった。
 実は、仁義の手によって、肉体と魂を一度分離されていて、不安がっている幻を見せられている間に、必要な処理は肉体の方に済ませていたのだった。
 魂を肉体に戻される華芽菜と鈴子。
 知らない内によく解らない事をされていた。
「何てことすんのよ」
 怒鳴る華芽菜。
 仁義は、
「何てことってなんだよ。そのまんまだったら、お前ら、とっくにくたばっているぞ。俺がやったのは、必要不可欠な延命処置だ。いかがわしい事なんてやってねぇよ」
 と答える。
 それを聞いて、ゾッとなる二人。
 現界に居た時の常識では計れない何かがあるのだと実感する。
 虚無六界に入る下準備だけで、二人にはついていけない世界だった。
 それから、散々、仁義に文句を言う華芽菜だったが、馬の耳に念仏状態だと理解し、抗議を諦めた。
 華芽菜達が落ち着いてきたのを確認すると、仁義は改めて、虚湧界の案内を始めるのだった。
 虚湧界――虚界三界の一つ。
 その宇宙世界の全体は仁義を持ってしても、二年では把握しきれていない。
 だが、数々の猛者が隠れている事は確認していた。
 その猛者達を集めて、チームを作る所まではこの二年間である程度出来ている。
 だが、虚湧界だけの大会でも優勝出来る程にはなっていない。
 宇宙世界大会どころか、リーグ戦での優勝すら危ういくらいだ。
 それだけ、この世界の強者達が強いという事でもある。
 とは言え、仁義は化獣と同じ核を三十核も所有するという圧倒的なポテンシャルを持っている。
 正直、その力の全てを使いこなしているとは言えない状態であるのも事実だ。
 なので、仁義にはまだまだ、伸びしろがあると言えた。
 その仁義の状態を彼なりに、華芽菜達に説明した。
 説明が上手くないので、何処まで、彼女達が理解したか、解らない所ではあったが。
 だが、自分のポテンシャルと自分の成績を説明した事で、この宇宙世界には華芽菜達が想像もつかない強者達がかなり存在しているという所までは何となくだが、理解する事は出来た。
 上には上が居るという事は解った。
 また、仁義一派達もベスト100に当たるメンバー達は散り散りに他のチームに参加していて、下克上、打倒仁義もありという事になっているとも説明した。
 戦いを見学していたら、その内、仁義一派とも会うこともあるだろうという事も説明した。
 それだけを前置きとして説明し終えると、今度は有望選手達の紹介をするという事になった。
 有望選手と言っても、本当の実力者かというと少し疑問は残る。
 あくまでも、今の仁義から見て、凄い実力の持ち主達であって、この虚湧界だけでも、仁義の想像もつかない程、強大な力を持った存在が隠れているはずであるからだ。
 そういう意味では、有望選手といっても、まだまだ、中途半端な実力者であるのかも知れない。

 仁義が最初に紹介したのは、シュッセスという選手だった。
 シュッセス選手の見た目としては、人間の成人男性と大差無かった。
 あえて違いを言えば、歯の並びがサメの様に何列かあったくらいだろうか。
 シュッセス選手の特徴としては、倒した敵の経験値を奪えるというものだった。
 倒せば倒す程、その相手の経験値を貰えるので、強い敵と戦えばそれだけ、勝利=大幅なスキルアップという事になる。
 特殊な力ではあるが、実は、この虚湧界においてはわりとポピュラーな力であるらしい。
 プロ・バトが相手を殺害するまでは許されているのは、虚無六界においては死亡しても消滅していない限り、復活はそれほど難しい事ではないからで、シュッセス選手の様なタイプは相手を殺害しないと経験値を取れないからでもある。
 また、虚無六界においては死という概念が現界とは違っている。
 虚無六界にとっては、一旦、全く動かなくなる状態を死と呼んでいて、それからの復活をする者は決して珍しいものではなかった。
 そういう意味でもシュッセス選手は虚無六界の説明をするのに的確な人選と言えた。
 次、以降も有望とされる選手を紹介していく、仁義だったが、有望というよりは、虚湧界の世界を説明するのに必要な選手達を紹介していくと言った感じで、本当の有望選手ではないなというのが、華芽菜達の感想だった。
 紹介はされたが、その力の説明を受けて、ふーん、そうなんですか……という相づちはうてるものの、だから、何だというのが彼女達の感想でもあった。
 自分達から比べれば遙かに強いというのは解るが、だからと言って、それがどうだといわれると、反応のしようが無かった。
 むしろ、これならば、自分達がやってきたバトル・チアの方が面白くなっているような気がしていた。
 それを察したのか、仁義が、
「つまらねぇか?」
 と聞いてきた。
 つまらないとは言いにくいが、その持っている雰囲気が肯定しているのは彼にも解った。
 鈴子が気を遣って
「つまらないというか、その変化がないというか……」
 と何とかフォローしようとするが、フォローになっていなかった。
 それならば、つまらないとはっきり言って貰った方が良いと言える。
 だが、仁義は、
「俺から見ても今までの説明はつまらんと思うぞ。遠慮無く、はっきり言ってくれて良いぞ」
 と言った。
 つまらないのは仁義の方も解っていたのだ。
 解ってはいたが、虚湧界が現界とは違ったルールで成り立っているという事を説明するには、避けては通れない事として、仁義なりに気を遣って説明していたのだ。
 元々、プロ・バトは、仁義がバトル・チアを見て、その複雑な面白さを自分達でもやろうと思ってはじめた事なので、選手達の紹介よりは、プロ・バトのバトルスタイルの方を見て欲しかったのだ。
 そして、これからが、プロ・バトの紹介であると言える。
 プロ・バトの方もバトル・チアと同様にオフシーズンなので、バトルスタイルの紹介と言っても活躍する選手ではなく、プロ・バト出場を夢見るセミプロ達のバトルを見るという事になった。

 仁義が紹介するプロ・バトは、3つだった。
 実際にはプロ・バトの本戦でやることは無くなったが、元々は、バトル・チアのバリエーションの多さを元に考えられたこの種目は本戦以外にも多数のバトルスタイルが確立されていた。
 今回はその内の一部を紹介するという形になる。
 まず、紹介するのはハンディキャップマッチという種目だった。
 これは、自身の身体にわざとハンデをおって戦うというものになる。
 ランダムに指定されたハンデを守って戦うという事になるので、元の実力が勝っていてもハンデ次第では負ける事も十分に考えられるバトルとなる。
 例えば、腕に関する能力に特化する選手が居たとする。
 足が不自由になるというハンデを負えば、それほど大きなハンデとはならないかも知れない。
 だが、腕が不自由になるというハンデを負ってしまえば得意能力をほぼ封じられたも同然となる。
 そういう状況下でのバトルという事になる。
 これは平均的な能力を持っている者が有利となる競技でもある。
 平均的な能力を持っていれば、何処がハンデだろうとさほど問題としないだろうが、特別な部位のみに得意分野があるとハンデ次第で有利にも不利にもなってくる。
 これをエキシビジョンマッチで見る事になり、仁義の解説もあって、なるほどと華芽菜達は思うのだった。
 次に紹介されたのはアビリティーイコールバトルという種目だった。
 これは、対戦相手と使う能力を統一するというものである。
 つまり、自分は使えても相手が使えない能力は使うことができないという戦いになる。
 場合によっては、能力のパワーや、耐久度なども調整される事がある。
 これは、自分の実力と相手の実力を可能な限り統一して、その技などの駆け引きを中心にバトルとして成立させた戦いでもある。
 最後に紹介されたのがエリアタクティクスウォーという種目だった。
 先の二つは個人戦だが、こちらは団体戦という事になる。
 こちらは、全てのエリアを把握している司令塔となるプレイヤーと実際に戦う事になるプレイヤーの二種類がいるが、戦う事になるプレイヤーは細かく、役割分担などが分かれている。
 各チーム司令塔は1名ずつだが、戦うプレイヤーは、1チーム10名以上という事になる。
 10名は少ないバージョンでオーソドックスなパターンで言うと20名くらいという事になる。
 今回はその20名が戦うバージョンを見せてくれた。
 簡単なイメージでいうと将棋やチェスのようにコマに見立てたプレイヤーを刈り取っていく戦いとなる。
 ただし、これは、攻撃側のプレイヤーが受け手側のプレイヤーを刈り取るというものではなく、バトルエリアに指定したエリアにコマに見立てたプレイヤーを司令塔のプレイヤーが導いていくというものであり、同じエリア内にいたプレイヤー同士は制限時間内にそのエリアの中で戦う。
 基本的にノックアウトするか、エリアから追い出せば、相手プレイヤーは失格となる。
 また、バトルエリアに指定された場所には、1チーム1プレイヤーが参加するというものではなく、指定時間内にエリアに入る事が出来れば、複数の味方プレイヤーと共に戦う事も出来るというものである。
 なので、1対3とか、5対2とかの変則マッチになることも珍しくない。
 バトルエリアは一度に、1〜5カ所指定する事が出来るため、どのチームがどのバトルエリアにどれくらいの戦力を持ってくるか解らない。
 指定されたバトルエリアに片方のチームが誰も参加しないと相手チームがそのエリアを占拠することになり、占拠したエリアも後でポイントとなるため、司令塔プレイヤーはバトルエリアにプレイヤーを上手く配置して行かなければならない。
 勝敗は、一定以下にまで、相手プレイヤーの数を減らすか、特定の占拠エリアを確保するか、王将にあたるプレイヤーを失格にするかで決まる。
 どちらも王将にあたるプレイヤーを倒した場合は、先に王将にあたるプレイヤーを倒した方が勝ちとなる。
 また、コマとなるプレイヤー達にはある程度の役割を持たせる事も出来る。
 ルールにもよるが、例えば、AチームのBという選手は、CチームのDという選手と同じエリアになったら、バトルをしなくても、無条件で、Dという選手は失格などの条件をあらかじめ決める事も出来る。
 また、これは、チーム戦だが、なにも1チーム対1チームである必要はない。
 1チーム対2チームになったり、1チーム対1チーム対1チーム、2チーム対3チーム対1チームのようにいくらでも変則マッチが可能となっている。
 ただ、それだけ複雑になると、華芽菜達では訳がわからなくなるので、今回はオーソドックスに1チーム対1チームでの勝負となった。
 エリアのバトルの範囲はかなり広く、今までの華芽菜達ではその全てを把握する事は出来なかったが、ここへ来てすぐに施された肉体強化のお陰で、彼女達はこの超高レベルのバトルもそれなりに理解して、観戦する事が出来た。
 最初の選手の紹介の時は、なんだと思ったが、プロ・バトの試合形式を見てみると、なるほど、バトル・チアから派生したバトルスタイルと言えると華芽菜達は思うのだった。
 バトル・チアとプロ・バト――それぞれの競技で良い所は吸収し合い、悪いところは指摘しあえば、お互いの競技はなお、いっそう盛り上がるのではないかという感想だった。
 バトル・チアを紹介している現界とプロ・バトを紹介している虚湧界での仁義、及び、華芽菜達はそれぞれ、ある程度の時間が経ったら感覚を共有しあった。
 その結果、どちらも甲乙つけがたいという感想になった。
 それは、仁義も華芽菜達も同意見だった。
 どちらの競技にもその競技なりの面白さがある。
 どちらを肯定して、どちらかを否定するというのは間違っていると言えた。
 それよりは、お互い情報交換をし続けて、影響しあう方が双方ともよりよい競技として昇華していくであろうという結論に達した。
 どちらの競技も本大会ではないので、どちらが面白いかという結論はそれぞれの本大会を見た後でも十分遅くないと言えた。
 いや、どちらが面白いという結果を出す方がナンセンスであるとも言える。
 仁義と華芽菜はそれぞれの世界で、お互いを認めるように握手をするのだった。


第四章 虚湧界の大物探し


 バトル・チアとプロ・バト――
 お互いの競技の紹介はとりあえずとしては終わった。
 まだ、その競技の面白さの一部、氷山の一角の部分でしか、紹介しあっていない。
 だが、それだけでも、どちらの競技も面白く、なおかつ、将来性のある事を示していた。
 黙っていても、他の種目も面白いであろうという事は容易に想像がついた。
 お互いが納得した所で落ち着いた。
 落ち着いたのは良いのだが、レコード・ノートによって二つに身体が分かれてしまった華芽菜達は、元の宇宙世界、現界に戻る事は出来ない。
 元に戻れば、同じ人物が二人いるとして、華芽菜達の周辺ではパニックになるだろう。
 それだけはなんとしても避けたい。
 だとすれば、少なくとも本大会を見終わるまでは、このまま、虚湧界に居続けるしかない。
 元の一つの身体に戻して貰えるのはどうせ、本大会を見終わった後だろう。
 なので、華芽菜と鈴子は虚湧界での生活を余儀なくされた。
 虚湧界は虚無六界の一つなので、もしかしたら、他の5つの宇宙世界を紹介されるまで終わらないのかと思うと少々気が遠くなる話だった。
 黙っていても仕方ないので、二人は虚湧界の事を知ろうと心がけた。
 幸い、知らない内に、肉体強化をされているので、虚湧界の空気になじんでいるとまではいかないまでも、それ程不自由は感じていない。
 だったら、本戦に入るまでの間に自分達で知れる所は知っておくのもありかなと思うのだった。
 華芽菜と鈴子は虚湧界のどこを回るか相談する。
 本戦が始まるまでは自由時間という事で、仁義は華芽菜達に自己責任で行動を任せ、自分はさっさと本戦参加の準備を始めてしまっている。
 そういう所が愛想がないと言える。
 どちらにせよ、本戦が始まると、仁義は案内をする立場ではなく、大会参加者としての一面を見せるという事になるのだろう。
 仁義としても、去年の大会のように、リーグ優勝すらままならないという無様な結果は見せられないという所だろう。
 華芽菜達を招いた以上、彼女達に見せても恥ずかしくないくらいの結果、成績を残そうと躍起になっているのだ。
 そういう気持ちがわかるからこそ、華芽菜達は仁義を放っておく事にした。
 一所懸命頑張っている者の邪魔をするような無粋な真似をするような女性ではないのだから。
 それに、仁義が居たら出来ない事もある。
 今は、鈴子と二人、楽しめる事を楽しんでおこうと思うのだった。
 そう決めると、二人にとってはまるで旅行気分だった。
 虚湧界という宇宙世界は華芽菜達の力では決して行くことが出来なかったところでもある。
 だったら、この機会に回れるところは回ってみようと前向きに考える事にした。
 なんだったら、仁義さえまだ、出会えていない大物に会ってみようとも思っていた。
 自分達が仁義が知っている大物よりも大物に先にたどりついたら、彼はどんなに悔しがるんだろうかとか想像するとそれはそれで何だか楽しくもあった。
 普段であれば、訳のわからない宇宙世界に連れてこられて不安だらけという状態なのだが、先のプロ・バトの観戦時に感じた、自分達の肉体の強化で気持ちが大きくなっていた。
 怖い者なんて何もない。
 私達も強くなったんだ。
 そんな強気だった。
 仁義がたどり着かないだろうと思える方法――
 それはうわさ話をたどるという方法だった。
 仁義の性格から考えて、他者に者を尋ねるという事はあまりしないだろうと考えた。
 ならば、他者に聞いて回るという方法は、彼は恐らくやらないだろう。
 やらないという事はそこに見落としがある可能性は十二分にある。
 本来、非力な彼女達にとって、それが、仁義よりも優位に立てるかも知れない方法だった。
 とは言っても知らない存在に簡単に聞いて回る事なんかは出来ない。
 見ず知らずの女の子が尋ねて来ても素直に答えてくれる者がいるかどうかも怪しい。
 ならばどうするか?
 それは、この宇宙世界ならではのコミュニケーション手段を探して、それで、アプローチをしてみるというものだった。
 幸い、インターネットに近いものがあったので、それで、比較的、容易に入っていけたので、それで情報を収集した。
 そのインターネットモドキでは、誰が強いという事で盛り上がっているコミュニティーサイトモドキが多数存在した。
 恐らく、仁義はこの手の手段は持ち入らないだろうから、この部分では彼よりも先行しているとも言える。
 華芽菜は鈴子と協力して、検索などを繰り返して、有力情報をピックアップしていった。
 それは何だか、宝探しをしているみたいで少し楽しく感じた。
 途中、強さとは関係ない事にも興味を示し、寄り道していったが、気持ちを切り替えて、強さを求めて検索する事に集中し、いくつかの有力情報にいきついた。
 ただ、このインターネットモドキも虚湧界全体を網羅している訳ではなく、いくつもあるものの一つに過ぎなかった。
 なので、虚湧界全体のビッグネームにたどり着けるかというと答えはノーだった。
 仁義が二年間かけて探して見つからない存在がインターネットモドキに情報として載っていると思う方が浅はかではある。
 だけど、それでも、このインターネットモドキでの情報は仁義の知っている大物達よりも更に大物であるという可能性は捨てきれない。
 まだ、仁義の知っている大物全てを紹介された訳ではないから、はっきりと断言出来るというものではないが、それでも、散々振り回されてきている仁義に一泡ふかせてやれるかも知れないと思うと、ワクワクしてきた。
 冒険というよりは、旅行の準備をする。
 旅とは言っても、一月後には、本大会が始まるのでそれまでには戻って来ないと行けないので、小旅行のようなものだ。
 郷に入っては郷に従えという言葉もある。
 とりあえず、この虚湧界の事を知らないと、何も出来ない。
 仁義に伝言だけ残すと二人は冒険に出た。
 目指すは、仁義すら知らない大物と出会う事。
 戦う事ではないから、そんなに難しい事とも思えない。
 そんな軽い気持ちで二人は足を踏み出した。

 一方、仁義は自身の身体をいじめ抜いていた。
 鍛えて、鍛えて、鍛えて、鍛え抜き、次の本戦大会のための力をつけていった。
 他の仁義一派との連絡は取っていない。
 彼は個人主義だ。
 自分のために動き、自分のために死ぬ。
 それが彼の信条でもある。
 現界では勝利続きであった彼は、虚湧界での戦いで初めて挫折した。
 圧倒的な敗北だった。
 ほぼ、為す術無く負けた。
 その敗北によって、彼は、自身の実力不足と自分の可能性をかいま見る事が出来た。
 負けたのは悔しいが、今は感謝している。
 現界ではクアンスティータ以外には負ける気がしなかったが、それは仁義の傲慢であったといえる。
 どんな宇宙世界にも上には上がいる。
 それを知ることが出来ただけでも大きな収穫と言えた。
 彼と同じく怪物ファーブラ・フィクタの魂を受け継ぐ、技陣や時銀の事が気にならないと言えば嘘になる。
 彼らも大きく成長出来る可能性を持っている。
 何しろ、あの芦柄 吟侍でさえ、敵う敵わないは別として、最強の化獣クアンスティータに対抗する力を秘めているのだから。
 怪物ファーブラ・フィクタの魂を最も多く持っている者としては負けてはいられない。
 仁義はこれまでの傲慢さを改め、挑戦者の気持ちで切磋琢磨していった。
 全ては、自身のために。
 虚湧界での日々は過ぎていく。

 続く。






登場キャラクター説明


001 柳宮寺 仁義(りゅうぐうじ じんぎ)
柳宮寺仁義

 本編の主人公。
 ファーブラ・フィクタの主人公、芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)が怪物ファーブラ・フィクタの七つの魂の一つの転生した魂であるのに対し、彼は七つの内、三つの魂が転生した姿でもある。
 神話の時代に存在した168あった核の内、30核分の力を持つ。
 プロルパートとも呼ばれる。
 人望が厚く、彼を慕う者は多く現れるが、群れるのを嫌うため、単独行動が多い。
 悪さをする本人よりもそれを煽る人間達を強く毛嫌いする。
 また、必要以上に気に入らない者をいたぶる癖もある。
 怒らせたら手に負えない。
 ブラッと訪れたある星で、バトル・チアというスポーツと華芽菜という少女に出会い、心に変化が現れる。
 バトル・チアというスポーツを元にしたプロフェッショナル・バトル・ストロンゲストを立ち上げ、虚無六界(きょむろっかい)で戦いを繰り広げて来た。


002 大和 技陣(やまと ぎじん)
大和技陣
 ファーブラ・フィクタの主人公、芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)が怪物ファーブラ・フィクタの七つの魂の一つの転生した魂であるのに対し、彼は七つの内、二つの魂が転生した姿でもある。
 右手に5番の化獣(ばけもの)ルルボア、左手に11番の化獣レーヌプスを同時に宿す猛者でもある。
 仁義、技陣、時銀の中では最も残忍な性格をしていて、敵に対する容赦は全くなく、命乞いをしようが何だろうが、さからう者は皆殺しにしている。
 仁義一派では仁義に次ぐbQの実力者で、仁義同様に群れるのを嫌い、単独行動を取ることも多い。


003 丹波 時銀(たんば じぎん)
丹波時銀
 ファーブラ・フィクタの主人公、芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)が怪物ファーブラ・フィクタの七つの魂の一つが転生した魂であるのに対して彼も同じく、七つの魂の内、一つが転生した姿でもある。
 仁義一派ではbPの仁義とbQの技陣が群れるのを嫌うため、bRである彼がチームを仕切っている。
 そのため、彼がリーダーだと勘違いされている。
 3番の化獣ウィルウプス・アクルスを宿している。
 最強の化獣である13番のクアンスティータとは単なる化獣の名前ではなく、決して解き放ってはならない三つの名前、リステミュウム、レアク・デ、そしてテレメ・デをオブラートに包み込んだ存在でもあると暴露する。
 人間の身であるにもかかわらず、神の最強戦力の一角、1級天上使メメタトロンの力を完全に封じ込めるという実力を示した。


004 竜乃宮 華芽菜(りゅうのみや かめな)
竜乃宮華芽菜
 仁義が出会った普通の少女。
 バトル・チアというスポーツの女子の部では向かうところ敵無しの有力選手だったが、ルールもろくに知らなかった仁義により、プライドを傷つけられ反発する。
 その後、自分を見つめ直し、改めて精進し、仁義のライバルと認められるようになる。
 彼女のバトル・チアと仁義の考えたプロフェッショナル・バトル・ストロンゲスト(プロ・バト)とでおもしろさを競うことになる。
 不思議な世界には全く、免疫が無く、仁義が強引に押しつける人外の考え方やアイテム等に親友の鈴子と共に翻弄される。
 アイディアを出し合い、二年間でバトル・チアを大きく発展させて来た功労者。


005 榊 鈴子(さかき すずこ)
榊鈴子
 仁義が出会った普通の少女。
 バトル・チアというスポーツの世界においては華芽菜と並ぶ有望選手でもある。
 ただ、気の強い華芽菜の方がどうしても目立ってしまうため、仁義に金魚のふん扱いを受ける。
 仁義の事を初めて会った時から怖い人として認識している。
 なるべく逆らわないようにしていたが、強引な仁義の手によって、不思議なアイテム、レコード・ノートの迷路の一つを解かされ、無理矢理身体と心を二つにされてしまう。
 その後、バトル・チアとプロ・バトの二つを比べるために身体の一つが華芽菜と共に異世界へと飛ばされる事になる。


006 沢宮 理路(さわみや りろ)
沢宮理路
 仁義が華芽菜に対抗する為に、才能を買われスカウトされた少女。
 元々、天才的プレイヤーだったが、才能のない者達が結託して、彼女とのチームプレーを拒絶したため、孤立状態にあった。
 バトル・チアはチームプレーのスポーツだからと我慢していたが、顧問の教師もイジメグループとグルだったと知り、自殺を図ろうと死に場所を探していた時、仁義に引き留められ、退学を決意させられ、そのまま、新チーム、トリッキーズのキャプテンになる。
 仁義の考えた、今までのルールに無い方法を多く取り入れ、大会の台風の目となる。
 その後、数々の強豪チームが出来る先駆けとなった少女。
 現在はバトル・チアの運営委員として、縁の下の力持ち的仕事をしている。


007 杉浦 可奈(すぎうら かな)
杉浦可奈
 仁義が華芽菜に対抗する為に、スカウトされた少女。
 元々はやさぐれた不良少女だったが、仁義に無理矢理喧嘩をふられ、完膚無きまで叩きのめされる。
 命が惜しかったら、バトル・チアをやれと脅されそのままトリッキーズのメンバーに。
 が、ナイフの様に、ことある毎に、回りに喧嘩を売っていた元の性格は成りを潜め、気弱な性格になってしまった。
 現在は引退し、バトル・チアの運営委員として、縁の下も力持ち的仕事をしている。


008 ぽち子
ぽち子
 元々は名前すら無かったホームレスの少女。
運動神経を仁義に認められ、三食昼寝付きで、トリッキーズにスカウトした。
 仁義の事は夢と希望と食べ物をくれたご主人様と思っている。
 ぽち子は仁義が適当につけた名前だが、気に入ってそのまま使っている。
 現在は引退し、バトル・チアの運営委員として、縁の下の力持ち的仕事をしている。